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自動運転時代に「機械式駐車場」が抱えるジレンマ:マンションのコストと未来を考える

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マンションの住民にとって、駐車場の存在は日々の生活に密接に関わってきます。特に、限られた敷地を有効活用するために、多くのマンションで導入されているのが機械式駐車場です。しかし、この機械式駐車場が、実は高額なコストと、まさに到来しつつある自動運転の時代において、大きなミスマッチを抱えていることをご存知でしょうか?

機械式駐車場の「見えないコスト」

機械式駐車場は、平面駐車場に比べて省スペースで多くの車両を収容できるというメリットがある一方で、その裏にはさまざまな「見えないコスト」が潜んでいます。

まず、建設費が挙げられます。複雑な機械設備や制御システムが必要なため、一般的な平面駐車場と比較して初期投資がはるかに高額になります。これはマンションの販売価格にも当然転嫁されており、私たち購入者の負担となっている部分です。

次に、維持管理費です。機械が正常に稼働し続けるためには、定期的な点検、部品交換、潤滑油の補充などが不可欠です。専門業者による保守契約が必須であり、その費用はマンションの管理費として毎月徴収されます。故障が発生すれば、高額な修理費用が発生することもあります。エレベーターと同じように、経年劣化による大規模修繕も数十年単位で必要となり、その費用もまた私たちの修繕積立金から捻出されることになります。

さらに、電気代も見過ごせません。大規模な機械式駐車場であれば、その電気代は軽視できない金額になるでしょう。

そして、利用する側にも時間的コストが発生します。入出庫に時間がかかる、待ち時間が発生するといったストレスは、日々の小さな積み重ねでありながら、QOL(生活の質)を低下させる要因にもなり得ます。雨の日の入出庫や、急いでいる時の機械待ちなどは、経験された方も多いのではないでしょうか。

自動運転の到来が機械式駐車場にもたらす「ミスマッチ」

さて、これらの高額なコストを抱える機械式駐車場ですが、近年、その存在意義を大きく揺るがす技術の進化が現実のものとなりつつあります。それが自動運転技術の到来です。

現在、多くの自動車メーカーが自動運転技術の開発を加速させており、レベル3(特定条件下での自動運転)の車両も市販され始めています。将来的には、ドライバーがまったく介入しないレベル4やレベル5の完全自動運転が普及していくと予測されています。

自動運転車両は、駐車場への入出庫も自動で行うことが可能です。例えば、マンションのエントランスで降りた後、車両は自動で駐車場に移動し、指定されたスペースに駐車する。そして、利用者が車を呼び出せば、自動でエントランスまで車両が迎えに来る、といった未来が描かれています。

しかし、機械式駐車場は、このような自動運転車両の特性と根本的ミスマッチを起こしてしまいます。

まず、機械式駐車場のパレットや昇降装置は、人間が運転することを前提とした設計になっています。自動運転車両が機械式駐車場に進入し、正確にパレット上に停止し、安全にロックされるという一連の動作を、現在の機械式駐車場が自動で連携して行うことは非常に困難です。解決すべき技術的な課題は少なくなさそうです。

また、機械式駐車場の入出庫に要する時間も問題です。自動運転車両が効率的に駐車場を利用するためには、スムーズかつ迅速な入出庫が求められます。しかし、現在の機械式駐車場では、どうしても一定の待ち時間が発生します。これは、自動運転が目指す「シームレスな移動体験」とは相容れない部分です。

さらに、将来的に普及が進むであろうMaaS(Mobility as a Service)の概念とも齟齬が生じます。自家用車を所有せず、必要な時に必要なだけ車両を利用するMaaSの時代において、特定の場所に固定された機械式駐車場の「区画」を所有し続けることの意義は、次第に薄れていくかもしれません。

未来を見据えた駐車場計画の必要性

もちろん、自動運転技術の普及にはまだ時間を要するでしょうし、すべての車両がすぐに自動運転車に置き換わるわけではありません。しかし、マンションは数十年単位で利用されるものです。現在建設されている、あるいは計画中のマンションが、将来的な自動運転社会に対応できる駐車場を備えているかどうかが、そのマンションの資産価値を大きく左右する可能性を否定できません。

これからのマンションにおいては、

  • 平面駐車場の確保:自動運転車が自律的に入出庫しやすい環境
  • 自動バレーパーキングシステムへの対応:駐車場内での自動運転による駐車・出庫を前提とした設計
  • EV充電設備の充実:自動運転車両はEV化も同時に進む可能性が高いため
  • シェアリングモビリティへの対応:カーシェアやロボットタクシーなどの拠点としての活用

といった視点を取り入れた、より柔軟で将来性のある駐車場計画が求められます。

高額なコストがかかる上に、未来のモビリティとミスマッチを起こしかねない機械式駐車場。マンションを選ぶ際には、現在の利便性だけでなく、長期的な視点でその駐車場の「未来」を見据えることが、賢い選択と言えるのではないでしょうか。

これから家を探す方は、この視点を頭に入れ、購入しようとするマンションの駐車場が将来のモビリティに対応できるのか、管理組合の将来計画などを確認することをおすすめします。そして、今まさに機械式駐車場を有するマンションの所有者は、来るべき自動運転の時代にどう対処するかを真剣に考える必要があります。最悪なのは、何もしないことです。この変化の波に、私たち居住者も、マンションの管理者やデベロッパーも真剣に向き合い、来るべき自動運転時代にふさわしいマンションのあり方を考えていく必要があるのです。


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