間取りに宿る資産価値
こんな広い間口を有したプランを目にする機会はまずないだろう。洗面室と主寝室の浴室を除けば、すべての空間が開口部に面している。ダイニングの吹き抜けも特徴的。ペントハウスならではのダイナミックな眺望が、天井高約5mの空間で体感できるのだ。
細長のバーチカル(垂直)に空いた窓の連続もユニーク。その規則性がインテリアとして落ち着きをもたらすばかりではなく、窓際に近づけば景色が広がり、部屋の奥に行くに従って壁の割合が増し、(感覚的に)プライバシーが優先されるようだ。
この魅力的なプランを実現せしめたのは、他でもない眺望である。窓の向こう側は、国会議事堂越しに皇居の緑が広がり、その延長線上には東京スカイツリーが見える。
人気の向きや眺めをより多くの人が享受するには間口を狭く区切ること。売主にとっても、その方が販売(または賃料)単価を上げやすい。高級マンションの定番と言われる内廊下は、廊下側に窓がないため、光の採れない居室ができてしまう場合が少なくない。行灯部屋(あんどんべや)と呼ばれるものだ。語源は、行灯を仕舞うための物置、遊郭でお金を払えない人をおしこめておくところ、とある(*)。幾つかの「稀な条件が重なりあった」とき、思いもよらない贅沢なアイデアが完遂できる。昨今は資産価値を優先するがあまり、立地ほど間取りにこだわらないという人が増えた印象がある。個々の嗜好にとやかく言う筋合いはないが、秀逸な間取りが立地の良さを引き出すのであって、本当の希少性とは、双方そろって初めて生まれるものではないかと申し上げたい。
資料提供:森ビル
吹き抜けの妙。まるで上階は空中散歩のように
実面積以上に広がりをもたらしていたのが、ダイニングの吹き抜け。上から差す光は下階の開放感を高め、足元に展開される上階からの景色は非日常を演出するものであった。空間には設計者がもたらしたいくつかの個性が存在するが、これほど印象に残ったアイデアも珍しい。
千代田区永田町。東京メトロ銀座線・丸の内線「赤坂見附」駅徒歩1分。地上38階建て。中・下層部は事務所。26階より上層が住居フロア。駅上部にありながら、周囲に同程度の超高層ビルディングが少なく、眺望上有利な条件を備えている。総戸数125戸。管理:森ビル、設計・施工:大成建設。2002年竣工。