Chapter1:新築マンション市況
以下、DVD「首都圏マンション市況 2018下半期」より転載(一部修正)
「それではまず初めに、新築マンション市場について解説したいと思います。新築マンションの売れ行きは、毎月、不動産経済研究所が発表します、初月契約率のデータを見ていきます。初月契約率というのは、その月に売り出されたマンションが月末の時点でどれだけ売れているか、この割合を示したものです。
こちらに、2005年5月から2018年7月までの初月契約率の推移が折れ線グラフで表されています。このデータの見方としましては、70パーセントの所に赤い線が引かれましたが、これを市場の好不調の境目、目安にします。つまり、これより上だと好調、下だと不調ということになります。ご覧いただきますと、リーマンショックの前後は、この契約率が大きく70パーセントを割り込んでいるのが分かると思います。その後、震災を経て第2次安倍政権発足、いわゆるアベノミクスという経済政策がスタートした直後は80パーセント前後の高い数値を記録しているのが分かります。
80パーセントというと、業界では飛ぶように売れるというような言い方をしてもいいぐらい活況を呈すわけなんですけれども、その意味では、この70パーセントを挟んで前後10パーセント、計20パーセントのこの幅の中で市場が目まぐるしく変化するとご理解いただけるといいかと思います。その後、消費増税や相続税改正といった税制改正があり、さらにマイナス金利導入があって現在に至るということなんですけれども、2016年あたりから、この70パーセントを割り込む月が多くなっているということなんです。というと、いま市場は不調なのかということなんですけれども、必ずしもそういうわけではないんです。この数値が上がらない原因は何かというところについて、次にお話しをしたいと思います。」
「こちらのグラフは、今の初月契約率の推移に、販売単価の推移を水色の折れ線グラフで足し合わせたものです。新築マンションの販売単価は、そのマンションが供給されるエリア、例えばこれが、都心の割合が増えるとか、駅に近い物件の割合が増える、あるいは超高層タワーが多くなると、おのずと上がる傾向にはあるんですけれども、ご覧いただきますと、アベノミクスがスタートしてからは、この上がり具合が激しくなっているというのが分かるかと思います。つまり、この値段がずっと上がって来ているんで、買う側としては少し様子見をしているというふうなことが、この契約率の数字に表れているということなんです。しかし全物件が7割弱売れているということではないですね。
そういう意味では、一言でいうと、今、新築マンションの市況は二極化しているということになります。二極化というのは、これはもう数年前からずっといわれてきた現象ではあるんですが、最近はそれがより顕著になっているということです。どういうことかというと、例えば売れ行きのいい物件は、以前なら割安な物件というものが比較的好調だったんですけれども、今は逆に、周辺相場よりも高い物件、これが売れているというところが特徴だと思います。この二極化市場については詳しくチャプター5でご説明したいと思いますけれども、今、契約率は70パーセントより低迷している。しかし売れ行きのいい物件は高いものほど売れているという、そういう意味では、非常に分かりにくい市場であるというのがいえるかと思います。
ここで、新築マンションがどれぐらい上がっているかというのを見てみたいと思うんですけれども、その月によって随分ぶれ幅がありますので、ここでは2008年から月別に、10年前の同月比と5年前の同月比を比べてみたのがこちらの表です。少しばらつきはあるんですが、おおむね、10年前に比べると、3、4割の上昇が見て取れる。一方、5年前に比べると、2割から3割5分上がっている。そういった結果になっています。
最後に、新築マンション市場について見る上で、留意点を一つ挙げたいと思います。それは市場全体に、特にこれは供給側なんですけれども、インフレ期待があるということなんです。アベノミクスというのは、物価上昇目標を立てて、それに対して金融施策等々、いろんな手を打ってくるというふうなことをやってきたわけですけれども、なかなかその目標に達成しないということで、引き続きこの金融緩和というのが継続されているんですけれども、そろそろ、徐々に物価が上がっていっているというふうな現状を踏まえると、この不動産マーケットにおいても依然インフレ期待があるということがいえると思います。そういう意味では、デフレの時代は、新築マンションの在庫がたくさんあると、それは時間と共に資産価値の目減りといったリスクが生じる可能性があるということなんですけれども、インフレ期待の環境下においては、この販売の長期化というのが必ずしも不調だということではないということを、この視点が、今、新築マンション市場を見る上では非常に重要なポイントになってきます。」