なぜ、ワンルームが注目されるのか?
2016年に三菱地所レジデンスがワンルームマンションブランド「ザ・パークワンズ」を立ち上げ、2年が経過した。「千代田佐久間町」「品川戸越」と完売し、現在は「芝公園」「渋谷本町」を販売中だ。
投資向け物件は、実需マンションと売り方がまったく異なることから、当初は顧客リストを集めるのに相当時間を要するのではと踏んでいたが、実際は違ったようだ。「ザ・パークハウス」マンション購入者を中心に、同社の信頼性や知名度をもとに市場の需要が吸収されたといっていい。
それにしても、なぜこれほどまでにワンルームマンションに関心が集まるのか?都心は相場が高止まり。かつてのような「利回り」期待は難しい。答えを探しに、関係者にヒアリングを試みた。そこには「大手ならでは」のキーワードが浮かび上がる。
想定外の「実需」ボリューム
購入検討者のプロフィールで、売主さえもが驚いたのが「実需」のボリュームである。投資向け商品ではあるのだが、現在のワンルームマンションの専有面積は25m2を超えるものがほとんど。バブル期のような10m2台の小さな面積帯はない。ひとり暮らしをするには差支えのない広さといえる。現に、政府が定める単身世帯の「住生活基本計画における居住面積水準(最低)」は25m2と明記されている。
将来「貸す」ことも視野に入れれば、ワンルームマンションはマイホームの有力な選択肢の一つになり得る。信頼のおける大手売主だったら、確かな借り手を探してくれる、あるいはサブリースといったメニューも用意されている、管理も安心できる、といった印象を持つのだろう。物件によって上下するも、概ね3割程度の実需割合は「同業他社が驚くほど高い値」(同社幹部)だそう。まさに潜在需要を掘り起こしたといえる。
潜在需要という意味では、富裕層ニーズを的確に捉えた側面も見逃せない。現金購入者が重要視する「(利回りよりも)安定収益」=適切な審査手続きを経た賃借人の決定、「高い品質」=トラブルや予想外の出費に見舞われにくい、など短期的な収益性よりも長期的な視点での「信頼」を優先した投資用不動産の登場を待っていたかのようにも思える。
優れた商品性
そして、実際に竣工現場を取材してみて一番に感じたことは「細かなアイデアが満載」だということ。質感重視かと思えば、実用的な工夫まで、じつに多岐にわたる企画力を実感した。「ザ・パークワンズ 芝公園」をもとにその一端を解説してみたい。
まずは、キッチンから。ワンルームマンションのキッチンといえば、かつてはお湯を沸かす程度しかイメージできなかった電気式一口コンロを思い出すのだが、今ではガス2口コンロをセッティング。作業可能なスペースに加え、シンク蓋も重宝しそうだ。手入れのしやすいパネルに、最も印象的だったのが収納棚。最下部に水切りカゴを差し込める仕様にしている。
慌ただしい朝の時間。食事を済ませ、食器を洗って、カゴに入れ棚に差し込んでおく。水滴はシンクに落ち、帰宅時にはすぐ使える状態に。急な来客も、シンクの洗い物が視界に入ることなく、食器類がある場所にそれらがすぐ取り出せるのはさぞ便利だろうと、思った。
さらに、「エアコン」「スライドレールライト」「コートフック」「アクセントウォール」「ピクチャレール」「タイル張りの廊下」と充実した標準装備である。釘を打つのをためらう、オーナーの先にいる賃借人の気持ちが理解できていなければ、このような利便は思い付かないだろう。ちょっとしたアートを壁にかけ、照明を一つあてるだけでセンス良い空間が生まれる。カーテンとベッドさえあれば今すぐ住める、と内覧に来た顧客は感じ取るはずだ。
収益力の高さは検証済!?
投資用物件における要点は「収益力」に他ならない。最後に、この点について触れておきたいことがある。それは、奥行きの長い一般的な間取りプランでの「家具配置を想定した間口の広さ」。
まず、ベッドを窓に並行して配置。オープンスペースにソファと薄型テレビを向かい合わせて置く(下の画像参照)。これが実現できれば、住む人は落ち着いて長く居てくれる傾向にあるという。ポイントは、間口の幅。貸しやすい価格設定が叶う専有面積から「最適な間口幅」を条件に住戸割りを行う。すると、周辺相場の家賃単価より15%~20%アップした収益力が実現できたのだそう。
三菱地所グループは、賃貸事業部門を設け「パークハビオ」シリーズを展開してきた。その実績をもとにノウハウを蓄積し、「ザ・パークワンズ」に活かしているということだ。漠然とした「大手のブランド」ではなく、名実ともに魅力的な商品の誕生が需要創出につながったのである。