「2020年後の不動産暴落説」は、幾分鎮静化したかのように思える。が、ここにきてNT市場ダウのボラティリティの高さやそれに連動した日経平均を見て、都心部を中心に高額帯マンションに負の影響をもたらすのではいか、との懸念も浮上する。東京五輪が近づくにつれ、こうした「この先の相場を占う」的な記事に世間は日増しに敏感になるだろう。ただし、どこまでが「真か」をしっかり見極める必要があるだろう。
日経「三井不が売りに出る!?」
昨日(1月12日)掲載、日経新聞マーケットコラムに「ピークアウト感強める不動産市況 大手の構えに戦々恐々」という記事が出た。以下、引用。
市場関係者に波紋を広げているのが三井不動産の菰田正信社長が昨年11月下旬に開いたアナリスト向けミーティングでのある発言だ。(略)
「不動産はシクリカル(循環的)なので、利益が出過ぎてしまっても、積極的な売却を検討するタイミングがあっても良いと考えている」
三井不の連結ベースの棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産、開発用土地の合計)は18年9月末で1兆5000億円強と、リーマンショック後の底だった11年3月末の約6300億円に比べると2倍強に膨らんでいる。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HEB_Q9A110C1000000/
中期経営計画を見据えた発言、と但し書きがあるがリーディングカンパニーが売りに出るということは、需給バランスに影響が出るかもしれないし、「今が売りどき」と判断した、と警鐘を鳴らすような仕立てである。不動産市場に関心の高い読者なら、印象に残る記事にはなるだろう。しかし、腑に落ちない点がなくはない。
純資産の伸びも2倍強
下のグラフは、デベロッパー大手4社グループ(三井不動産、三菱地所、住友不動産、野村不動産)の純資産の推移である。
この10年、大手4社の純資産合計は約3兆円から約6兆円に倍増。新築マンションの契約率が高くなくとも、供給戸数が低位安定のため、急いで売る必要がないとする根拠がこれだ。
そして、肝心の三井不動産だが、記事にある2011年3月期と2018年9月期とで「純資産」を比較してみると、棚卸資産と同様「2倍強」増えていることがわかる。つまり、安定性を維持しながら「順当に仕入れも増やしていけている」ということだ。
自己資本比率は大手最高
念のため、自己資本比率も調べてみる。すると、三井不動産は2018年9月期時点で「34.7%」と、大手4社の中でもっとも高い水準であることが分かった。
不動産会社のなかでも、デベロッパー業態は「常に仕入れ、開発し、付加価値を付けて売却する」を繰り返す事業である。だから、自己資本比率が異常に高いことは「成長するための仕込みをできていない」とも捉われかねない。レバレッジ30%が目安とも言われていることからすれば、この時点だけに関していれば、逆に少しの「余裕がある」とも受け取れなくもない。
もっとも、経営の効率性を表す「ROE(株主資本当期純利益率)」は、住友不動産(11.3%)が断トツで、三井不動産(7.4%)は三菱地所(7.3%)と同水準にとどまる(野村不動産:9.4%)。外国人株主の比率が高い三井不動産としては、すべての指標でトップをねらわなければならないとの思いがあるのではないか。相場に負の影響をもたらすような「売りはしない」はずだ。