「東京五輪2020」が1年半後に迫ってきた。首都圏のマンション市況においては、2018年12月初月契約率が5割を切るなど、決して全体の売れ足は良くない。高止まり相場はビッグイベントを機に崩れていくのか。ここで、業界経営者の(過去の)予測をもとに今後のリスクを整理する。
不動産市場の景況
この記事で引用するのは、東急不動産ホールディングス代表取締役社長大隈郁仁氏(2015年4月就任、2017年4月東急不動産代表取締役社長社長執行役員就任)が2015年冬、日本不動産ジャーナリスト会議にて行った講演内容の一部である。当時、「番町」や「みなとみらい」の新築マンションを高値完売で話題を集めた時期でもあり、それらの実績に基づきながら、市況予測を語った。
現商況は、商業を含むビル空室率は3%台まで低下。賃料も約半数の案件で5%程度の値上げができている。マンションはみなとみらいや番町の高額が順調。相続税対策による需要も減っておらず、タワーは上層階から決まる。しかし、目黒駅前を含む、市場で注目を集めるプロジェクトは冷静に見れば「供給が少なかったエリアで、需要の蓄積があったから」。郊外エリアはすでに動きが鈍く、杭データ改ざん問題の影響も読めないとしかいいようがない。とはいえ、都心部の需要は長期的にも健在で、価格が見合えば売れるだろう。
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一言でいえば「オフィス、マンションとも利便の良い立地の不動産需要は底堅い」。供給空白エリアは思わぬ値段がつくこともある。それ以外でも価格調整が可能ならば、在庫が積み上がるような心配はないだろう。これは、いますぐ暴落が起きる事態にはならないことを示唆している。
世界経済のリスク
次に、海外に孕むリスク。
世界経済を俯瞰すれば、アメリカの利上げや中国経済の動向などリスクは存在するが、風向きが突然アゲンストになるようなことはないだろう。2017年に控える消費増税もその前の駆け込み、その後の反動はある程度起きるとみる。その度合いもすでに計算済みだ。東京五輪2020も同様に直後の落ち込みはありえるが、崖のような落差が生まれるのではなく、緩やかなトレンドになるだろう。
アメリカの利上げは、2018年末に投資市場から一時的な「リスクオフ」の波乱が見られたが、年明けFRBハト派発言で動揺は収まった様に見える。
消費増税は延期され、「計算済み」は、その時間を有効に活用し「落ち込み回避の優遇制度をより手厚くする」ことに成功。先回りは数年先の決算を幾分楽にしたとも捉えることができ、数字づくりのための「早期回収」のような売り方はいまのところ考えにくい。多少の「崖」には耐え得る余力があるはずだ。
最も恐れるは「金融が萎むこと」
最後に明確なリスクを。
重要なことは「金融がしぼむかどうか」。リーマンショック直後の再来を恐れるべきだ。
不動産会社は、レバレッジを常に効かせながら投資と回収を繰り返し収益を上げていく。だからお金の流れが滞った瞬間に企業活動が停止する。極端な話、黒字かどうかはあまり関係がない。リーマンショック時、前年に最高益を出しながら経営破綻した会社があったのはそういうことだ。
スルガ銀行不正融資のあおりで、アパート経営の融資が滞っているという。ワンルームマンションや実需購入に同様のパターンがもし起きると上記シナリオとは関係なく市場は機能しなくなるだろう。
大隈社長は、意外にも「金利上昇リスク」には触れていない。金利が上がり始めると、逆に活況を呈すだろうという意見もある。予測と言えども「何年先のことか」で随分と意見は分かれるのかもしれない。