フェアウェイに家が建つ「季美の森」
「季美の森」(千葉県大網白里市)は、東急不動産によって1994年以降順次開発・分譲された、ゴルフコースと住宅地が一体となった街区名称である。開発総面積は約200万m2、宅地は1855区画(季美の森住民公式サイト参照)。最大の特徴は、住宅とゴルフコースの間に柵や塀などの境界がないことだ。海外では見かけるようだが、フェアウェイ沿い家屋が並ぶ様はリゾート地さながら。にもかかわらず東京まで45分圏にある、つまり通勤圏に立地することがアピールポイントであった。

テクノロジーが遠隔立地にもたらす効用
だが、長引くデフレのなかで「職住近接」が身近なものに。国や地方自治体は駅前徒歩圏で暮らす「スマートシティ構想」を掲げる。壮大な面開発ではあるものの遠距離郊外の部類に入る「季美の森」は、時代の流れを捉えて言えばマーケットの中で注目される存在から外れていく傾向にあったといえるだろう。
しかし、5Gをはじめとするテクノロジーの進化は、モビリティの革新を呼び、郊外立地の不便さを払拭・低減させる期待を孕んでいる。この度、東急不動産はシェアリングエコノミーのMaaS(Mobility as a Service:マース)領域において「タクシーの相乗りアプリ」を運営するベンチャー企業の株式会社Near Me(千代田区丸の内)と提携。実証実験の位置付けだが、渋谷周辺から季美の森ゴルフ倶楽部へ相乗りシャトルバスを運行する。

「郊外住宅地の高齢化」は今後一層進行し、社会的課題を深刻化するといわれている。しかしながら、5Gによる自動運転の普及はまちがいなく「マイホーム候補地の拡大」ともたらすとみている。3環状が整備され、車両交通の環境も向上した今、モビリティの革新は間違いなく「郊外需要の活性化につながる起爆剤」になるだろう。季美の森(や同様の面開発型住宅街)が、あらためて注目されるのではないか―それは、今回の実証実験に限らず、新しい技術やサービスが出るたびに訪れるチャンス以外の何物でもないといえる。
片道3,980円

料金は片道3,980円。出発地を「渋谷周辺」としているのは、東急沿線を活用する顧客層を意識してのこと。今回は、ゴルフ場利用客向けの運用ではあるが、<今後同様のシステムを「季美の森」団地にお住いの方々を対象にオンデマンド交通の実証実験を行う予定」(東急不動産)>としている。