昨日(2020年2月21日)、不動産経済研究所は「全国マンション市場動向」を発表。それによれば、2019年供給戸数は70,660戸、前年比▲12.0%減。「じつに1976年以来の低水準」とある。経済紙の朝刊では「消費者が慎重姿勢を強めた」とあった。「売れないから、売り出せない」とも受け取れる。となれば「もうしばらく待てば下がるかも?」とも予測できそうだが、実情はもう少し複雑だ。そう簡単には「下がりそうにない」とみている。データで解説してみよう。
上昇基調を崩さない販売単価
下のグラフは、「全国・首都圏・近畿圏」の新築マンション供給戸数と販売単価の推移(「不動産経済研究所」発表データを元にグラフ作成)。供給戸数については、大きなトレンドとしては「2013年をピークに下落基調」である。一方、販売単価は、2012年を底に上昇トレンドを崩していない。
マンション価格が上がっているのは
・超低金利
・相続税改正による節税対策としての需要増
・都市に人が集まる人口動態
の、主な3つが原因であることは、各メディアや不動産各社上場企業の有価証券報告書等に記載の通り。
しかしながら、相場動向の原理原則は、他ならぬ「需給のバランス」である。上記3点には需要に関わる項目がすでに2つあるのだが、「供給の減少」そのものも需要増による相場上昇圧力に拍車をかけていることを見逃してはならない。もう少し、詳しくデータを見ると。
供給上位の財閥大手が激減
2019年供給戸数「デベロッパーランキング」上位5社は以下の通り。顔ぶれは、前年(2018年)から変わっていない。注目したい点は、財閥大手各社の増減だ。
順位 | 社名 | 戸数 | 増減(戸数) | 増減率 |
1 | 住友不動産 | 5,690 | ▲ 1687 | -23% |
2 | プレサンスコーポレーション | 5,305 | 38 | 1% |
3 | 野村不動産 | 3,941 | ▲ 1283 | -25% |
4 | 三菱地所レジデンス | 3,365 | ▲ 249 | -7% |
5 | 三井不動産レジデンシャル | 2,365 | ▲ 833 | -26% |
マーケット全体では、供給戸数は「前年比12.0減」となっている。しかし、その中身を見ると、大手が大きく減らしていることがわかる。1位:住友不動産が▲23%、3位:野村不動産、5位:三井不動産レジデンシャルともに▲25%超。戸数で見れば、住友不動産1社で1,600戸超も減少している。
マンション市場は大手寡占化といわれて久しい。大手の動向が市場を左右するわけだが、市場規模、相場動向はこれらの実態がわかれば見えてくることが多い。トップシェアが2割以上もダウンしているのに、変わらず1位であり続け、そして(後述するが)業績は絶好調である。
売主の事情
不動産の取引価格は、環境要因とは別に「オーナー固有の事情」が値段に反映される。リーマンショック直後にマンション価格が暴落した要因のひとつは、カタカナデベが「換金を急いだ」から。金融が萎んだ、という言い方もできる。
あれから10年が過ぎ、分譲マンションの売主はどう変わったか。下のグラフは、上記5社のなかの大手不動産会社4社「三井不動産・三菱地所・住友不動産・野村不動産」の純資産推移。企業の価値・体力を見る指標はどのように変化したかというと。4社計、2010年「3兆1922.85億円」だったのが、2019年には「6兆1275.87億円」にも膨らんだ。91.85%増、「倍増」に等しい。
不動産開発業は、レバレッジ(自己資本比率)3割程度が効率的だとみる向きが多い。純資産の増大は、より大きなプロジェクトに邁進できる環境が整っていると同義だ。都心部や海外の開発に果敢に取り組み、さらなる成長を目指す。大手各社は現在増収増益を継続中だ。
住友不動産に至っては、2020年3月期「売上高、営業利益、経常利益、当期純利益すべての指標で7期連続過去最高を更新する」見込み。すでに来期も「住宅は分譲・賃貸ともに好調に推移する予定」(同社関係者)という。
同社が分譲中の公式サイト「物件概要」欄を見ていると「計上は来々期にしたい」という思いが見え隠れする。本記事で述べてきた文脈の実証と解釈して差し支えないだろう。上場企業は、毎年確実に数字が上がる決算を望む。投資家に好まれるからだ。
超低金利の環境下が変わらない限り、大手は「売り急ぐ理由がない」。否、逆に売り急がないことで「相場上昇圧力を弱めないコントロールが図れる」。需要の堅調さは数年続くだろう。他事業が好調で業績が作れるなら、分譲事業は引渡し時期を調整しながら、「次」や「次の次」の決算を考えることができる。インフレ期待で、時間を使うほど決算に貢献する可能性があるなら尚更だ。
では当面、都市部は下がらないのか?といえば、上記流れに該当しにくいエリアやプロジェクトはねらい目となるのだが、その話は別の機会にしたい。