初月契約率の重み
2019年10月度マンション市場動向調査(不動産経済研究所発表)から、現時点の「首都圏の新築マンション概況」とともに「新築マンションデータの見方」を解説する。
新築マンションの売行きは、初月契約率で判断する。いや、正確に言うと「これまでは判断してきた」。初月契約率とは、その月に売り出された新築マンションが月末の時点でどれくらい売れたかを示す割合。70%を目安として、それより上なら好調、下なら不調とみる。しかしながら、これはデフレ時代の見方だった。日々市場価格が下がっていくデフレ下では「早く売ったほうが良い」。だが、インフレ期待下では一概にそうともに言えず「時間を使って、利益の最大化を試みる」が(例えば株主や従業員のようなステークホルダーにとっては)望ましい。売り出しと同時に売り切る「即日完売」は、デフレ下では高く評価されたが、インフレなら「値付けが低かったのでは?」と問われてしまう、ということだ。
したがって、初月契約率は2016年あたりから70%を下回りはじめたのだが「売れ行き不振」ではなく、市場環境を考慮した販売戦略の結果に過ぎない。そこで、市況を図る目安として、不動産経済研究所が2018年1月より新たにリリースした指標が「完成在庫数」である。
注目すべき指標は「完成在庫数」
新築マンションの売り方は「青田売り」といって、完成する前から販売をはじめる。一度売り出したものが残れば「在庫」に分類されるが、「完成前」と「完成後」では意味合いが大きく異なる。銀行からの融資を元手に事業を展開する不動産分譲ビジネスは、完成時に全額回収(完売状態)が目標となる(ごく一部の企業だけは7割で十分と言っているが、それは例外)。
上のグラフ、グレーの棒グラフ(翌月繰越販売在庫数)が「完成の有無を問わないすべての在庫」。パープルの棒グラフが「完成在庫数」である。グレーのグラフのトレンドは初月契約率の低下とともに拡大しているが、パープルはそこまで連動はしていない様子が見て取れる。また、グレーのグラフは2018年12月に急増しているが、その後減少トレンドに収まっている。つまり、初月契約率の低迷ほど、マーケットは悪くないということだ。
完成在庫比率推移をグラフにしてみた
とはいえ、一昨日(2019年11月18日)発表された2019年10月度の初月契約率は「42.6%」とこれまでみたこともない低い数値だった。
そこで、より変化を察知しやすくするために「在庫数における完成在庫数の比率」をグラフ化したみた(下のグラフ)。マンションは年度末前に竣工を迎える現場が多い。なので、3月は完成在庫が増えやすい。その後5月以降の活況をもって落ち着いていく。2018年は秋の商戦でも完成比率が下落し、およそ10%改善。完成を待たずに捌けた様子が伺える。2019年は、夏までは同様だったが、8月以降上昇に転じている。現時点では、在庫の半数以上が完成済である。このまま上昇の一途を辿るようであれば、相場は弱含みに転じると予想しなければならない。
とはいえ、オフィスビルの空室率は低く、仲介や賃貸住宅も堅調。大手を中心に業界全体の業績は好調だ。よって、二極化市場のなか、現市況でも好調に売れている都心好立地ならびに駅前再開発プロジェクト等の現場では大きく値崩れすることは、今のところ考えにくいといえるだろう。