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世帯数増とマンション供給動向の実際

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 前回記事『マンション価格が下がらない「業界の事情」』では、大手デベロッパーの好調な業績と経営安定性の側面から「マンションの値段が下がりにくい理由」の解説を試みた。2020年3月9日時点、コロナウィルス被害の経済への影響とアメリカ市場の先行きが予測しにくい状況ではあるが、「マンション需給の実体を長期的な流れ」の中で理解し、今後の相場動向を推察する上での材料のひとつにしてみたい。

増え続ける一都三県の世帯数

 下のグラフは、政府統計データを元に首都圏(一都三県)における「対前年の世帯増加数」を棒グラフであらわしたもの。住宅需要は様々な背景があるが、ここでは単純に「家屋を必要とする総量が、どれだけ変化したか」に着目する。

世帯数増加数
世帯数増加数

 すべての年、すべての都県で増加した。2013年が突出しているのは、「3.11(東日本大震災)」の影響が次の年初にカウントされたものと思われる。2016年以上は、安定して「東京都は10万超」「埼玉県と神奈川県は5万前後」「千葉県は4万前後」世帯数が増加。2019年は一都三県で「235,097世帯」増えた計算だ。このうち、確実に何割かの世帯がマンションに住んだはずだ。「マンション化率」(出典:東京カンテイ/プレスリリース)によれば、東京都の都心3区(千代田区・港区・中央区)なら、マンションストック戸数は世帯数の75%以上にのぼる。

さほど増えなかったマンションの戸数

 次に、マンションの供給について、新築マンションの供給(販売)戸数と中古マンションの成約戸数を見てみよう。下のグラフは、不動産経済研究所(新築マンション)と東日本不動産流通機構(中古マンション)のデータから年間の戸数を棒グラフであらわしたグラフだ。新築は2014年以降減少傾向に、中古は増えてはいるものの、3万戸台を微増で推移している。

新築マンション中古マンション戸数推移
新築マンション中古マンション戸数推移

 次に、絶対数ではなく、増減率でこれらの変化を確認してみる。

中古マンションが著しく増加したのは「東京都」

 まず、世帯数。2008年を100とし、増加率を折れ線であらわした。「東京都」に並んで、「埼玉県」の増加率が高い。次に「千葉県」「神奈川県」と続く。神奈川県は東京都に次いで世帯数が多いが、増加率は一都三県では最も低い。

世帯数増改率
世帯数増改率

 同様に、新築マション供給戸数も2008年を100とし、増減率を見てみる。ここ4年はすべての都県で100を割り込んでいる。アベノミクス以来、地価上昇や他需要(ホテルなど)が増え、マンション用地が慢性的に不足しているといわれるが、世帯数増加と比べると「新しいマンションの登場が減っている」感は否めないといえるだろう。千葉県と神奈川県に至っては、一度も2008年を超えていない。

新築マンション供給戸数増減率(2008年=100)
新築マンション供給戸数増減率(2008年=100)

 一方、中古マンションの成約件数は、2011年と2012年の千葉県を除き、すべての都県が2009年を上回っている。これらの数値を見る限り、世帯増の受け皿に貢献した可能性が高いのは「新築マンションよりも中古マンション」と捉えることができる。

中古マンション成約件数増減率
中古マンション成約件数増減率

 それにしても、東京都は増加が著しい。世帯数では埼玉県と同等だったが、同じように描いていた4つの軌道は、2014年あたりから突然「一人旅」のように上振れしていく。多分に「都心居住ニーズの高まり」「相続税対策ニーズの高まり」等が考えられるが、要因分析は別の機会に行うとして、ここではさらに「都内の地区別の違い」を探ってみることにする。

「都心3区」が圧倒

 下のグラフは東京都を6つの地区に分け、増減率を比べてみた。地区の区分は以下の通り。

都心3区(千代田区、中央区、港区)
城東地区(台東区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、荒川区)
城南地区(品川区、大田区、目黒区、世田谷区)
城西地区(新宿区、渋谷区、杉並区、中野区)
城北地区(文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区)
多摩地区(都区部・島嶼部以外)

東京都地区別成約件数増減率
東京都地区別成約件数増減率

 3つのポイントに注目したい。ひとつは、やはり2012年と2013年を境に6つのグラフが時間ともに広がって(拡散して)いく点。ふたつに、都心3区は10年程度前の倍近くまで達する点。(ここまでくると「世帯増以外の要因」が強く介在していると考えるが妥当か)。みっつには、都心3区、城西地区、城南地区の3地区が東京都(赤の折れ線)をけん引している点。

取引が活発な地域が上昇する!?

 最後に、同じく6地区の成約単価の推移をみている。ご覧のように、並び順が成約件数増加率とほぼ同じ。城北と城東が入れ替わっているくらいだ。ここでも上記のポイントと同じことが言えそうだ。つまり、2013年以降差が広がり、3つの地区が都の数値をけん引している。

東京都地区別中古マンション成約単価推移
東京都地区別中古マンション成約単価推移

 多摩地区の成約単価を見ると、ほとんど変化が無いようにみえる。成約件数が活発に行われる地区では「成約単価が上昇傾向にある」といえそうだが、地区によっては「下落を抑制する」という表現が適している場合もあるということか。

 いずれにしても、エリアを細かく見る程に「変化の違いが顕著」である。「分譲マンションの都心化」、「駅近ニーズの高まり」が言われて久しいが、マンションの市場動向はより細分化して分析・理解する必要がありそうだ。

参考サイト:タワーマンションを検討するとき、私ならここを見る


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