格調高き邸宅空間
地盤から建物へ伝わる地震力を低減させる免震技術は、従来5階建てが限界とされた壁式構造の中高層化を可能にした。壁式構造ならではの柱梁のないすっきりとした快適性や家具配置もしやすい効率の良い空間を手にする機会が「免震技術のおかげ」で増えたわけだ。
上記の間取りも、そのひとつである。長所を詳細に追ってみよう。
玄関は、シューズインクローゼットにトール型下足入れを設置。折り上げ天井とニッチ(飾り棚)の構成は格調さえ醸し出す。常に整頓された住まいの顔が、ゲストを気持ち良く出迎える。
リビングダイニングは、整った形と風景を大きく切り取る開口部に注目。奥行き最大3mのバルコニーも圧巻である。屋外空間含め「さて、どこにどんな家具を置こうか?」と図面を眺めているだけでも楽しい気分にさせてくれる。
収納スペースもたっぷり。数もさることながらサイズが良い。大きすぎれば奥のモノが出しにくく、かといって奥行が小さければ汎用性が低くなる。主寝室は、ベッドのレイアウトもイメージしやすいと思わせる、折り上げ天井に着目したい。書斎用の机やドレッサーを仮に置いたとしても、その卓上の明かりとの棲み分けもおそらく容易であろう。浴室への動線も理想的だ。
スリットの窓についても触れておきたい。壁式構造のデメリットは開口部の制約。無駄に窓を大きくする必要のない浴室はさておき、Bedroom-2では縦長窓を3連に配置して、デザイン性の高い空間に仕立てている。
免震の効用を構造に生かし、構造の利点を心地の良い設えに転換した。建築技術の進歩をして、集合住宅の居住性を引き上げた好例といえる。
一歩足を踏み入れただけで伝わる邸宅感
玄関スペースの最大の特長は広さ。廊下の幅は1.2m。玄関部分は1.4mを確保している。折り上げ天井やニッチ、シンメトリ(左右対称)効果が加わって落ち着きのある雰囲気が増幅。空間全体の邸宅感が、一歩足を踏み入れたときの印象に見事に収斂されている。
世田谷区太子堂。東急田園都市線「三軒茶屋」駅から徒歩10分。敷地面積は1.4ha。広大な中庭を取り囲むようにして4棟の免震建物が並んでいる。2層吹き抜けのグランドエントランスは正面にガーデンビュー。ホテルのような高級感を味わえる。総戸数は311戸。分譲は住友不動産。設計・施工竹中工務店。2008年竣工。
著書「住み替え、リフォームの参考にしたいマンションの間取り(『都心に住む by SUUMO』 連載企画 【間取りに恋して】再編)」より一部転載