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2020年マイホーム購入を検討している人へ贈る7つのメッセージ

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資産形成と投資の違い

 資産価値を重視してマイホームを探す。その傾向が高まっていることはすでに述べました。資産価値は「需要の総和」なので、多くの人が「住みたい・持ちたい」と思う物件を選ぼうとする考えそのものは、自分の条件が世間の大勢と近しいものであるならば、懸念は不要です。

 ところが、「買った額と売った額の利益の比率(リセールバリュー)」や「貸したときの収益率(利回り)」といった不動産投資事業に用いる算式で物件の善し悪しを見分けようとする傾向まで散見されます。それ自体はポジティブなことです。しかし、不動産投資ビジネスは奥深いもの。落とし穴も多いです。俄かで身につけた知識を過信してはいけません。「その見方で本当に正しいか?」常に問う姿勢が必要です。7番目、最後のメッセージでは、マイホーム購入を活用した資産形成の具体と投資目線での物件選別のアプローチを解説します。

「パークマンション三田綱町ザフォレスト」モデルルーム・マスターベッドルーム(2014年6月撮影)本文とは関係ありません

 ケーススタディ:35歳、家賃15万円。賃貸住宅に住む世帯例で考えます。65歳定年まで30年間住み続けると、累計賃料は15万円×12か月×30年=5,400万円です。税制優遇はありませんので、5,400万円単純にお金がかかり、手元に1円も戻ることはありません(更新料・賃料改定等想定せず)。

 では家を買った場合、どうなるか。維持・修繕費や租税公課を差し引き、毎月約11万7千円を返済にあてる住宅ローンを組んだとします(フラット35金利1.27%・元利均等・返済期間30年)。借入額は3,500万円になります。頭金(自己資金)が1,000万円程度あれば、諸費用(登記費用や税金など)を払っても物件価格4,000万円程度の物件が買えそうです。ローンが終わったとき、売却すればどうなるか。仮に、物件価格が半額(1/2)になっていたとしても手元には2,000万円の現金が残ります。(さらに購入から10年間、住宅ローンの前年末残高1%が控除される制度で、支払った税金が最大400万円限度で戻ってきます。)定年後は通勤のタガが外れますから、広い選択肢のなかから買い替えることもできるでしょう。これが、住宅ローンを活用した資産形成です。

 定年後も住み続ける場合、賃貸は引き続き家賃15万円がかかるのに対して、持家は、上記試算だとローンを完済しているので、維持・修繕費と租税公課分だけで済みます。このケースなら3.3万円程度/月。人生100年代といわれて久しいですが、持家は定年後住み続けるほどコスト低減効果が高まります

 上記試算は、フラット35の金利(2020年1月 1.27%:公式サイトから)を使いましたが、変動金利を使った場合はどうなるか。ここでは変動金利を0.5%で算出します。返済額等同様の条件なら借入額は3,910万円まで伸びます。1割以上高い物件に手が届くわけです。仮に4,400万円の物件を買い、同様に30年後半値で売ったとしたら、2,200万円が手元に残ります。固定金利よりも200万円多いです。これが、途中で金利が上がる可能性がある変動金利のリスクに対する対価です。試算は変動金利が変わらない前提なので注意してください。

 ちなみに、金利1.27%の支払金利総額は約710.8万円。同0.5%のそれは(借入額が410万円多いですが)約301.4万円です。借入金利のコンマいくつのわずかな違いで、これだけの差額があるものなのかと認識すべきです。

 財産の観点で見れば、1,000万円のお金を30年後に2,000万円(または2,200万円)に殖やすことができた、ということなります。半値になったのだから2,000万円(または2,200万円)損をした、と思いがちですが、それは1年毎に収支をみす損益計算書(P/L)の見方。借入金を用いて、長い年月を経て財産の規模をみるには貸借対照表(B/S)の発想が適しています。

 以上が、持家を選択した場合の資産形成の具体です。

「パークコート六本木ヒルトップ」から「六本木ヒルズ」を望む(2012年8月撮影)

 次に、投資を意識した物件選別のアプローチを説明します。

 リセールバリューに関しては、買ったときと売ったときの差(上昇率)ですから「相場より安く買う」「将来値上がりするであろう確固たる理由がある」のいずれかしかありません。少子高齢化ですべてが底上げされることを望むのは無理があります。なので将来の値上がりとは「(新線・新駅など)交通利便が飛躍的に上がる」「再開発による経済効果が期待できる」など地の利が高まる地域・地点を見つけるしかありません。ですが、同じことを考えている人がたくさんいますので、すでに「折り込み済み」の場合が多いです。そのなかで利益を得るのは容易ではないでしょう。それよりも、「近い将来」が先であるほどリーマンショックのような「世界的不況による負の影響」が起こり得ないかが関心事になります。よって、不動産会社が転売事業で物件を仕入れる場合は、原則短期保有前提で選ぶことが多いと思います。マイホーム取得とは相容れにくい発想です。

 マイホーム検討者は、リセールバリューに関していえば「儲ける(上昇)」を意識せず、「下落しても全体平均より低い率で収まる」くらいを意識すれば良いのではないでしょうか。選別の軸のズレが少なくて済むと思います。

 利回りは発想が異なります。実質利回り(収益率)は、収入(家賃)から経費(維持管理費や租税公課)を差し引いたものを購入価格で割ったものです。空室率も加味します。融資を受ける場合は、実質利回りから調達金利を差し引いて検討材料にします。金利が下がると同じ利回りでもイールドギャップ(利回り-調達金利)が改善します。アベノミクスで不動産投資が活況になったのはこれが要因です。

 市場の原理として、利回りが極端に良い物件は(マーケットが健在である限り)価格が上がります。分母が増せば利回りは平均値に近づく。価格が上がらないとしたら、物件にマイナス要因があるからでしょう。よくあるのが老朽化した木造建物などです。高い利回りと引き換えに、空室が埋まりにくい、雨漏りなどトラブルが発生しやすい、対応に手間がかかる、突発的なコスト発生の恐れがある等課題を多くを含んでいるからです。でなければ、高い利回りのままオーナーが手放すはずはありません。

 ここまで書いて、感の良い人はすでにお気付きかと思います。安定した利回りを稼ぐ物件とは、収入の増減が少なく(=一度入居したら長く居てくれる、滞納が無い等)想定外の経費が発生しにくい(=トラブルが少ない、手間がかからない等)ことを指すと。そして、現金で買える人は利回りの少しの差よりも、「安定して収益を生み出す不動産」を好みます。

 都心部の好立地は利回りが低くなりがちで投資に向かない、という見方あるようですが、これは上記富裕層(現金買い)で成り立つ市場構造を理解できていないから。区分(マンション)は適さない、なぜなら空室率が0か100だから、という人は所有戸数が少ない場合しか想定できていないから、に他なりません。不動産投資は資産規模が大きい人ほど圧倒的に有利。資産規模に応じて相性の良い物件は違う、人によって解は異なるのです。

 最後に、投資のプロである機関投資家がどこを注視しているかをわかりやすくまとめた記事がこちら。参考にしてみてください。

参考サイト:マンション所有者が回避したい最悪のシナリオ

 

  


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「都心に住むby suumo」(リクルートホールディングス)
連載『間取りに恋して』(2012年3月~2018年8月)再編集
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