営業戦略の変化
バブル崩壊、長期デフレ、リーマンショック。すべての不況時に不動産業界で稼ぎ頭になったのは分譲事業、それもマンション市場である。デフレ下では、大地主は土地を一度に売り出すことが最大の利益をもたらした。グランド、工場、学校。そうした跡地の広大な敷地面積の土地が次々と大規模マンションに化したのである。回転重視の事業経営が求められ、初月契約率はまさに業界景気を示す値となった。いまでは日経新聞にも毎月データが掲載されている。
しかし、2013年初頭からはじまったアベノミクスはすべてを逆回転させたといえる。まず、インフレ期待下で大きな所有地を一度に売却しようとする地主はいない。そうなると、事業効率の良い大型マンションの候補地は減る。分譲中の売値も(地主と同じ考えに立てばわかると思うが)、時間を使えば販売価格を上げられる可能性がある。オフィスの空室率は下がり、賃料上昇さえ見込め、手数料事業も好調。となれば、相場が崩れるリスクを冒してでも分譲事業を早期回転させる理由は「どこにも見当たらない」。これが、今の大手総合デベロッパーの心理だろう。
都市には人が集まり、マンション需要は依然堅調である。五輪後ムードは変わるかもしれないが、分譲市場のファンダメンタルズは悪くない。マイホームは1世帯1戸だが、いまでは(マンションに限っていえば)2,3戸所有も珍しくなくなった。条件の良い物件はしっかりと時間を使い、少しでも利益を多く獲得できる作戦を考える。今はその環境が整っている。不動産経済研究所は初月契約率だけでは市況をあらわすことは困難と判断し、完成在庫数を2018年1月からHP上で公表している。「さすがに完成時は資金回収の目安にする」との考え方からだが、財務指標も盤石な大手企業には「長く借りてもらいたい」のが金融機関の本音ではないか。だとすれば、ますます市況データは読みづらくなる。
東京カンテイは「Kantei eye Vol.11」で「新築マンション販売スタイルの変化」を特集。大手は竣工前から販売を始め、竣工後も継続して販売する物件が52.4%と半数以上に(2018年実績)。これに対し、それ以外のデベは26.2%。