マンションの売行きを示すデータは、新築と中古で基準も見方も異なる。新築は、民間企業である不動産経済研究所が毎月発表するもので「初月契約率」としてあらわされる。詳しくは後述しよう。中古は、売れ行きを示す直接的な値はなく、「成約件数」「新規登録件数」「在庫件数」「成約単価」の推移を見ながら判別しなければならない。これは東日本不動産流通機構という公益財団法人が、こちらも毎月諸データを公表している。
さて、タイトル「新築マンションの契約率は低下する!?」をみて、いよいよマンション暴落か!と受け取った方もいるかもしれない。が、話はそう簡単ではない。順を追って解説をし、今後の市況シナリオをイメージしてみよう。
目次
1.初月契約率の定義
2.営業戦略の変化
3.焦る必要のない検討顧客
4.留意すべきデータの見方

初月契約率の定義
不動産経済研究所は、マンションを販売しているすべての現場に毎月ヒアリングをかけている。販売戸数や価格といった物件の概要、それに売れた数などだ。住宅分譲は「期売り」といって何度かに分けて物件を売り出す。市場全体の売れ行きを示すのが、ヒアリングからはじき出された「初月契約率」である。その月に売り出されたマンションが、月末時点で申し込まれた比率だ。厳密には契約ではなく、「契約ないしは申込みがあった比率」である。
売り出した月内に申込みがあった比率を市況の目安(70%が「好不調の境目」とされる)にしたのは、いくつか理由が考えられる。まず、デベロッパー(開発業者)は「資金回収の目途を早めに立てたい」。売れた物件が現金化するのは引渡し時だが、工事中(青田)で完売すれば、完済前でも次の融資を受けられる(=新しい用地仕入に注力できる)可能性が高まるからだ。新規現場が世にデビューするときは、営業マンも葉っぱをかけられる。検討顧客の動向も問い合わせのタイミングと購入意欲は比例の関係にあり、売出直後に物件の売れ行きがあらわれやすいのである。
さらに、一番大事な視点は長期デフレの慣習。日ごと資産価値が下落する環境下では、早く売りきることが利益の最大化を意味した。「即日完売」は、売り手はもちろん、買い手も「人気物件を買えた喜び」が得られた。しかし、こうした「初月で売れることの重み」がアベノミクス以降大きく変わってしまった。